寝言

全部寝言なんで

全員

 

 

お前も私も何者でもねえんだな。特別は与えられるものでしかないんだから、傲んのも舐めんのも馬鹿だろ。誰にも理解されていない部分なんて、ない人間の方が至極少数だと思うんだけど。知ってくれとするような人間のスタンスがどうしても腹が立つんだよ。どうしてってそれは自分と同じだからなんだよ、余計に腹が立つ。上っ面の剥がれかけた端が私にだけ見えていて、それが気持ち悪くて嫌いになった。好きと嫌いを濁すのが正義なんて絶対になりたくない。可愛い可愛いされるよりも人から舐められるのが一番無理だわ。特別のフリして傲んのも舐めんのも、大概にしろって。

 

私が思う恋

 

 

色の白い子が好きだって聞いたから、毎日ひやけ止めを塗った。ショートヘアの子が好きだって聞いたから、髪を伸ばす気持ちが揺らいだ。自分からは開かないようなプレイリストも聴いてみたけど、全然私は好きじゃなかった。好きな人の好きなものを全部確かめたい。この身で触れてみたい。でも本当は気づいてる。どれだけ近づいてみても触れてみても、私がそれらを同じように好きになっても、私はその中には入り込めない。気づいてるけど、君と同じ感覚を手に入れたくて目を逸らしてる。無理やり好きになったバンドを聴いている。

 

 

微睡

 

 

胸ん中には鮮烈に焼き付いたままなのに、脳みそにはアブストラクトな記憶しか残っていない。忘却は自然だ。人体は吸収と排出の仕組みでしかできていないということで、それは本当にすべてにおいてだ。時計の針を止めることはできても、私たち自身はサイクルをし続けていて止まることができない。水は濁って、りんごは茶色くなっていく。時計の針は止まったままなのに、蚕は繭を紡ぎはじめる。明日世界が終わるかもしれないのに、昨日の記憶はもう透けている。去年の今頃よく聴いていた曲を聴き直してみると、あの感覚がなんとなく蘇ってくるけど、あの頃のことなんかまるで覚えちゃいない。いっそこの身ごと、天井に揺れる波に流されて、何光年も先の海に消えていけばいいのに。

 

 

 

十六時

 

 

自分のことばっかりにならないような振る舞い方をしたくてそのバランスを離れて見てみるけど、私って他人の心に共感を灯してあげられているのかな。間違いなく私は他人とこの環境に生かされているけど、相応する共感性を持ち合わせているのだろうか。誰のために葛藤して結局最後には自分や寄り添ってくれてる人に皺寄せが来るような選択はどうしてもしたくない。卑怯で淡白で冷酷だと思う位置に立ってる人たちにまで私がどうにかする必要なんてないんだろうけど、それだって気になっちゃうから前も後ろも塞がっているんだろう。初夏を感じると思い出す、私が事実幸せだったあの時期。罪滅ぼしなんて考えない方がいい、逃げていいんだろうってわかってるけど、どうしてもそれが難しい性格なのも一番自分がわかってる。私は全部好きか嫌いかどうでもいいかにすぐ結びつけてしまうから、苦しいけど嬉しいし、舞い上がって満たされて泣いてしまう。自分のことばっかりだな本当に。夢が破れて、恋は無かったことになって、いらない心配をして、気持ちはジェットコースターみたいに急回転して、生かされている私は一体どうやって自分で生きてるのかこんなんじゃまるでわからない。

 

 

 

 

遠くのこと

 

 

今日は健やかでした。命は尊いってみんなが言うから、私はそれに悩んでいた。みんな加担して、たくさんの尊い命を殺してきたくせに。私だってそうしてきたのに。そのおかげで、私は今日も健やかでした。等しく罰がくだされて、等しく愛が降り注げば、この世はもっと残酷だろうね。バカじゃねえのって笑えるうちは、まだ未完成っていうことだ、よかったのかもしれない。今日もお星様はひそかに煌めいていて、そのおかげで私たちは健やかでいられます。無駄な将来を背負いながら、靴を鳴らしてあの空に向かっていく途中、私たちはみんなバカなのかもしれない。きっとお星様たちはそれを見て笑っている、けたけた笑っている、早くそっちへ行きたいな。いつもいつもいつもいつもいつも君はそうやって生きてきたね。明日も健やかでいられるために、お星様は増えているっていうのに。おかしいね、笑っちゃうよね。

 

 

綺麗なものでも大きなものでもないけど

 

 

私がいなくなりたいと望んだときに、寄り添うでもなく伺ってくるでもなく、遠巻きに視界のふちに入れてくれていた人たちを、大事だと思った。「もしかしたらこの人たちは、私が存在したっていう記憶を手放してしまうかもしれない」と思った。そうなりたくはなかった。そんな曖昧な境界線に立ってる人たちが私のことを認識してくれていることが、何よりも嬉しくて支えになった。すべては私の中に選択権があって、それを尊んでくれる人ばかりだった。人に、存在したいと思える理由を与えられるような人は、大事にするべきだと思った。視界の端っこでぽつんと生きているような孤独でも、孤独なりに育てた愛を投げつけて、自己満足な恩返しを。

 

はっきりさせたくない

 

 

 

夕焼けより朝焼けの方が、ぼんやりしていて好きだなってこの間気がついた。ぽつぽつ、駅に向かって歩く人たちと反対に流れていく自分自身が、なんだか少しおかしいみたいで、その瞬間は自分が特別になった気がして少し嬉しくなる。現実じゃないみたいな、白くふやけた視界と珊瑚色が柔らかくて安心する。結局綺麗で柔らかいものが嫌いな人間なんていないんだろうけど。まだ夜に腕を引かれてる人たちを横目に、私は誘い満たされるんだ。今だけは私のための夜が生まれる、朝を迎えに行く、時間と追いかけっこする準備の朝焼けが、私を誘い満たしてくれる。